【書評】絵画で綴る哲学と倫理学(門屋秀一)
哲学や倫理学を絵や彫刻などの芸術作品から解釈しようという斬新かつ意欲的な一冊です。
イコノロジーをテーマにすると俗っぽくなるか、小難しくなってしまいがちですが、この本はどちらに偏ることもなく深い教養に支えられわかりやすい形で書かれています。
章立ては以下
第1章 ソクラテスの無知の知―道徳哲学のはじまり―
第2章 ソクラテスの道徳的正義
第3章 プラトン的愛としての哲学
第4章 プラトンにおける善のイデア
第5章 プラトンにおける道徳と芸術
第6章 倫理学の確立―アリストテレス(1)―
第7章 善と幸福―アリストテレス(2)―
第8章 中庸の徳―アリストテレス(3)―
第9章 近代的自我の発見―デカルト―
第10章 幸福と善意志―カント(1)―
第11章 道徳法則と定言命法―カント(2)―
第12章 道徳性から人倫性へ―ヘーゲル―
芸術家達の教養の深さ
芸術家達の、宗教への理解だけではなく哲学や神話に関する知識と、それを視覚化する技術に圧倒されました。特にルネサンス期の芸術家は万能人を理想としていただけあって、作品に込められた意味を読み取るためにはどの時代よりも教養が必要だという印象を受けました。
もちろんそれを文字にできる著者の教養・審美眼があってこそ、私のようなアホにも理解できたことです。
哲学の入門書としてもアリかも
もちろんわからないことは調べる必要がありますが、高校の倫理程度の知識があれば読むことはできると思います。固有名詞以外は平易な言葉で語られているし、絵や彫刻など図になっているので原典よりも複雑な概念が理解しやすくなっています。
代表的な哲学者を網羅しているとは言えませんが、哲学に興味はあるけどなんとなく難しそうだから避けてきた、という方にはオススメです。これを足がかりにして次は専門的な学術書を読みたくなるかもしれません。
著者の私的な意見
各章の最後に「〜ではないだろうか」と著者の私的な意見というか人生観のようなものが書かれています。
完全な学術書であれば必要ない記述ですし、好き嫌いが分かれる部分だと思いますが、人間らしい部分が垣間見えて自分は好きです。*1
- 作者: 門屋秀一
- 出版社/メーカー: 晃洋書房
- 発売日: 2009/07
- メディア: 単行本
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蛇足
書評ブログは星の数ほどあるけど、すこし学術寄りになると全然読まれてない・書評がない気がします。この本でググってもほとんどネットショップですし。しょうもない自己啓発の要約するよりこういう本の紹介こそして欲しい、と愚痴ってみる。
*1:これは多分この人の講義受けたバイアスがかかってます